今村祐嗣のコラム

土木における木材利用と木材の耐久性向上策

Utilization of wood for civil engineering and improvement of its durability

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ABSTRACT Recently the environmentally friendly nature of timber has again been attracting considerable attention to its potential in civil engineering. The high-performance utilization of wood is assumed to be important from the view point of not only structural reliability, but also elongation of the period of carbon fixation. However, wood is occasionally degraded by biological effects of decay fungi and termites. This paper describes the outline of the characteristics of wood degradation and its prevention.


Keywords:木材、土木利用、腐朽、劣化、保存
wood, use in civil engineering, decay, degradation, preservation


1. はじめに
「土木」という言葉が示すように、かつて土木事業において最も重要な材料の一つが木材であった。しかし高度成長期、森林の荒廃や効率性重視の流れを背景に、木材からコンクリート等への転換が図られた結果、木材は今日の土木分野にとってもっとも馴染みのない材料となっている。
 その一方で、土木分野においても、木材の持つ、比強度が高い、適度な弾性がある、熱伝導率が低い等の素材としての長所、あるいは木材を利用することにより得られる、森林活性化効果、炭素貯蔵効果、省エネ効果、化石資源代替効果等、地球温暖化防止に資する効果といった効率性だけでは計れない価値が見直され、木材を土木事業に積極的に活用する動きが出てきた。また、木材の土木利用においては、大量の炭素固定効果も注目されている。
 しかし、一度他材料に置き換えられたものを従来のものに取り戻すことは容易なことではない。木材が当然にように利用されていた時代には、材料特性を十分に理解した上で、それを的確に用いる技術と使いこなす知恵とが当然のように蓄えられていた。また、施工や工事システムの中で正しく位置づけられ、それらが伝承されていく流れも備わっていた。その後、こういった技術とノウハウは、いつしか忘れ去られているのが実情ではなかろうか。
 木材の供給側である日本森林学会、木材を加工して供給する側の日本木材学会、ならびに木材の使用者側である土木学会は共に連携して、「土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会(横断的研究会)」を2007年の秋に立ち上げ、土木分野において木材の利用拡大を阻む課題の抽出や、具体的な木材の土木利用についての解析と検討を行ってきている。
 ところで、木材の利用を土木分野で拡大していく上での一つの重要な性能は、耐久性ではなかろうか。“木は腐るから、、、、、”とはよく聞かれる言葉である。
 ここでは、木材の土木分野への利用拡大を眼目におき、木材の劣化現象と耐久性の向上について考えてみたい。


2.劣化の発生状況
奈良県森林技術センター
図-1 野外腐朽試験で劣化した木材
  (奈良県森林技術センター)
ところで、世界最古の木造建築物である法隆寺の五重塔、それを1400年以上にわたって支えてきたのは、木材の驚異的な耐久性である。数百年前以上にわたり神社仏閣に使用されてきた木材を、新しく伐採された木材と比較しても、強度低下はほとんどないことは良く知られていることである1)。各種の建築材料のうち、石材やその他の無機材料を除いて、人類の歴史のなかで千年以上の耐久性を誇るのは木材が唯一であろう。
 しかし、年数がかなりたってもそこに使われている木材にはほとんど劣化がみられないことがある反面、わずか数年で取り換えねばならなくなるほど劣化が進行することもある。木材に劣化を引き起こす主要なものは腐朽やシロアリといった生物である。木材はセルロースやリグニンといった樹木がつくった生分解性の高分子化合物からできていることから、こういった生き物による劣化作用を受ける。
腐朽の発生・進行には温度と水分と酸素が必要な因子であり、このうちどれが欠けても劣化は進まない。このうち、温度条件は地域や気候、あるいは使用環境によって影響を受けるとはいえ、通常15℃以上になれば腐朽菌やシロアリの活動が活発になる。酸素条件については、土中深く、あるいは水の中で使用されてきた木の杭にみられるように、それが欠乏したところでは生物劣化は進行しない。一方、土中に使用された杭の場合でも、土中にある部分は健全であるにしても、地面に接する部分では水分、酸素の両者が供給されるため腐朽が進行する。
図-1は木材の耐朽性評価のために土中に埋設された杭の状況であるが、地際部分の劣化が一番激しい。上述のように水分、酸素の両者が供給されるためであるが、また、地面近くには腐朽菌が多く存在することもその進行を加速している。したがって、標準的な木材の野外腐朽試験では杭を土中に埋め込み、定期的に取り出して目視観察を行うが、地際部分の劣化状況によって評価されることが一般的である。


3. 劣化の概要
3.1 生物劣化
一般的に木材は、条件にかなった水分と温度が与えられると、変色菌やカビ、腐朽菌あるいは細菌類が木材の表面あるいは内部に繁殖し、汚染または劣化の原因となる。このうち、変色菌やカビは木材にわずかに含まれるデンプンやタンパク質のみを利用して生長するため、木材の実質は分解せず、強度を低下させることはほとんどない。
木材の微生物劣化で最大の被害を引き起こすのは担糸菌類による腐朽であり、セルロースやリグニンという木材実質を分解する。土に接した木材は、土中に存在する腐朽菌の菌糸や胞子との接触により、また、住宅部材のように木材と土との接触がない場合では、すでに腐朽した木材から菌糸が伸びてきて腐朽が始まったり、また、空中を飛散していた胞子が木材表面に付着し、水分が供給されると発芽して菌糸となり、内部へ伸長して腐朽が始まる。木材内部で繁殖した腐朽菌はやがて表面に子実体(“きのこ”)をつくり、胞子を生成する。


図-2 左から、褐色腐朽菌、白色腐朽菌、軟腐朽菌によって劣化した木材(スギ)
木材腐朽菌は褐色腐朽菌と白色腐朽菌に大別される。このうち褐色腐朽菌は建築物等の主要な劣化微生物であり、針葉樹材を特に劣化させ、セルロースを選択的に分解することから、質量減少が小さい段階であっても大きな強度低下を引き起こす2)。白色腐朽菌はセルロースとリグニンとを同時に分解するため強度低下に与える影響は褐色腐朽菌よりも小さいが、屋外では一般的に認められる菌類である(図-2)。軟腐朽菌は水分状態がかなり高い状態であっても活動し、表面から軟化するなど特有の劣化現象を示す。絶えず水がかかったり、高い水分状態の土中に埋まっていた木材によく見られる腐朽形態である。

図-3 左から、イエシロアリの兵蟻、職蟻、羽蟻の頭部
木材のもう一つの主要な劣化生物はシロアリである3)。シロアリは通常、温暖で高湿度の環境を好むが、腐朽の進行と関係なく単独で木材を加害する場合と、腐朽と並行して食害を生じる場合がみられる。日本には20種くらいのシロアリの生息が報告されているが、経済的に重要な種類はイエシロアリとヤマトシロアリである。イエシロアリは地中に巣を構築し、土の中に蟻道と呼ばれるトンネルをつくって移動し、ひとつのコロニーの個体数は100万頭を越えるといわれている。世界のシロアリの仲間でも住宅などに大きな被害を及ぼしている暴れ者で、その分布は南西諸島から沖縄、九州、四国、瀬戸内地域から近畿南部、東海、関東の太平洋岸となっているが、いまや太平洋を渡りアメリカでも猛威をふるっている(図-3)。
ヤマトシロアリは木材の中に巣をつくり近くのものを食害するが、個体数はイエシロアリより少なく1コロニーあたり数千から1万頭くらいである。このシロアリは、世界でもっとも北まで分布しているグループであるが、わが国では本州以外にも北海道の旭川市でその生息が確認されたのを皮切りに、最近ではさらに北上し名寄市においても発見されている4)。イエシロアリと異なり水分に対する依存度が高く、通常は腐朽と並存することが多い。
イエシロアリとヤマトシロアリは地下生息性シロアリと称されるグループに属するもので、いずれも土の中をおもな生息場所としている。場合によっては、枯死木や住宅の壁の中に巣をつくることがあっても、土中を移動の経路にし、特に水分供給を地下に求めている。しかし、最近わが国で、アメリカカンザイシロアリという変わり者のシロアリによる被害が増えてきた。このシロアリはアメリカら渡ってきた種類で、乾いた木材中でのみ生息し、生存に必要な水分も気乾状態にある木材から求めている乾材(カンザイ)シロアリである5)

図-4 日射に曝された木材表面
(細胞間層において顕著な成分分解が生じている。

3.2 風化
雨ざらしの場所にある木材は、彫刻刀で削ったように表面が粗くなっているのを目にすることがある。木材はその化学構造から非常によく太陽光を吸収する物質である。構成成分のうち、とくにリグニンやポリフェノール類からなる抽出成分は、紫外線を吸収しやすい構造をもつため、光分解作用を受けやすい。分解された成分の多くは水に溶けやすく、雨水により容易に木材表面から流れ出る。さらに溶出後に現れる内部の新鮮な部分も同様に光分解を受け、結果として木材表面は早材部を中心に劣化が進行する。これは風化と呼ばれる現象であり、針葉樹材の風化速度は100年で5~6mmともいわれている(図-4)。
また、公園のベンチや庭の縁台など、屋外でみられる木材はみな暗灰色化している。木材の変色は短期間で生じるが、初期の段階の変色は光酸化に伴う木材成分の化学構造の変化によるものである。濃色の材は明色化し、淡色の材は暗色化する。その後、脱リグニンによって薄い灰色に、さらにカビなどの付着による斑点状の黒色のシミが発生し、これが進行して最終的には樹種に関係なく暗灰色化する。これらのカビなど変色菌は、いわゆる腐朽菌のように木材の強度を低下させることはないが、光分解で低分子化した木材成分を好む。また、カビ類はたとえ塗装してあっても微小なピンホールなどから塗膜を通過し、その下に繁殖することもある。


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参考文献

1).西岡常一、小原二郎、「法隆寺を支えた木」、日本放送出版協会、143pp, 1978.
2).高橋旨象、「きのこと木材」、築地書館、64pp, 1989.
3).今村祐嗣、角田邦夫、吉村 剛、「住まいとシロアリ」、海青社、174pp, 2000.
4).今村祐嗣、しろあり軍団北上中、「木のびっくり話100」、日本木材学会編、講談社、132pp., 2005.
5).宮田光男、「シロアリ驚異の世界(第4巻)」、東京農大出版会、32pp., 2005.
6).今村祐嗣、ノンコンベンショナルな木材の保存処理、木材工業技術短信、24, 1-12, 2006
7).今村祐嗣、木材および木質構造物の劣化診断、環境管理技術、19, 177-186, 2001
(2010年8月 土木学会「第9回木材利用研究発表会)