今村祐嗣のコラム

温暖化防止の担い手としての意識をパワーに

変な具合です。ズートお世話になってきて、そして今も深くかかわっている木材保存協会の会誌に「木材学会会長」としての巻頭言を書くはめになりました。まるで嫁にいった娘が実家に向かってエールを送っているような気分です。
木材学会は今年創立50周年を迎えましたが、これを機に木材研究の重要性をより社会へアピールすることが大切と考え、「環境社会をきずく木質の科学と技術」を学会のスローガンとしました。すなわち、「森林資源を高度利用することが環境維持、循環型社会の構築、さらに健康生活維持に貢献する」ことを踏まえ、「人間の経済活動と地球環境維持の両立をめざすバイオマスの科学と技術の構築する」ことを学会活動の目標として再認識しました。
木材学会が50周年記念事業の一環として出版した「木のびっくり話100」の中に、中島史郎さんが“木造住宅の森を作ろう”というタイトルで、木造住宅に蓄えられた炭素の量を計算されています。それによりますと、住宅1棟に使われる木材量を約20立方メートルとして、固定炭素の量は5トン、1年間に新築される住宅の着工数を50万戸とすると、実に250万トンになります。既築の住宅の分までも入れますと、莫大な量の炭素が住宅に固定されていることになります。しかしこの「都市の森林」は生長して炭素固定のはたらきをすることはできませんので、一度固定された炭素はできるだけ放出を抑える、すなわち長く使っていくことが大切になってきます。このようなフレーズはよく分かっているけど、ただ目標にすぎないよ、と思われるかもしれません。しかし、「木材保存」が今後の人類の生存にとって重要な仕事だという認識は、必ずや皆さんを元気付ける身近なパワーになることは間違いありません。
ところで、木材学会の重要な活動の一つに当誌と同様に会誌の発行というのがあり、Journal of Wood Scienceという英文誌と木材学会誌という和文誌を発行しています。このうち木材学会誌には過去50巻に約5500の論文が掲載されてきましたが、記念事業の一環としてこれをCD-ROM化してキーワード検索で探したい論文を即座に読めるようにしました。これは学会としては大変貴重な学術資産であり、アーカイブ的に研究の流れを読んだりすることはもちろんですが、木材の研究や技術開発を行う上で大変便利な手段となっています。研究分野によっては時代の変遷とともに論文数の変化がみられる場合もありますが、保存分野は昔から今まで根強く投稿が行われてきている傾向があり、また木材保存に直接にあるいは間接に関連する分野も広がっています。一方の英文誌も今年で8年目を迎えますが、国際的なサーキュレーションを広げるということから冊子体とは別に電子版がWeb上に掲載されています。さらに、近々に審査が終わった論文を速やかに電子版にするというOn-Line Firstの導入も決定されました。
木材は炭素が固定された資源として地球の温暖化防止に大きく寄与するものであり、再生可能なことからこれからの持続型社会の構築になくてはならない重要なものであります。その科学と技術という共通の目標をもった活動を通して、貴協会との連携をより深めていきたいと思います。


(日本木材学会会長時 木材保存、31巻、 191ページ、2005)